地名とネーミングの関係

地名とネーミングの関係

ネーミングをするとき、地名はなかなかむずかしいキーワードだという話です。

 

香川県丸亀市のうどん店〔夢う〕で修行した人がロサンゼルスで〔丸亀もんぞうMONZO〕という店を出しました。

すると、あの〔丸亀製麺〕が、「〔MARUKAME〕は米国で商標登録済みであるので「丸亀」という名称を使用しないように」と申し入れをしたのです。

もともと、地名は商標登録できません。米国でも地名を商標登録して独占することはできない決まりです。
しかし、米国から見たら「マルガメ」なんて地名なんだか人名なんだかわかりません。
(仮に人名だとしても、世界地図を見たらアフリカあたりの砂漠名にそんな地名があるかもしれません。)

 

■うどん係争の結末

さて、〔もんぞう〕からすれば、「自分も修行した、香川県の一地名ではないか」という思いがあります。

一方、丸亀製麺からすれば、「米国へ進出する予定があり、その際は混同されて困る」という都合があります。

とはいえ、丸亀製麺の本社は丸亀市でも香川県でもない神戸市にあり、店舗も丸亀市やロサンゼルスにない。

心情的には、やや丸亀製麺側の権利濫用と映る部分があるかと思いますが、問題の店舗は米国内にありますので、いざ係争となったときにどのような判断が下されるのか不透明でした。

 

その後、この件は丸亀製麺サイドが「もう、こちらからアクションは起こさない」と明言したことで決着をします

一連の騒動によって、まったく無名だったもんぞうが、全国区(?)の知名度を得たといえるでしょうか。

いっそのこと、(なぜかメディアが見守るなかで)丸亀製麺の社長がロスのもんぞうでうどんを食べてみて、「うまかったので認めることにします!」なんてパフォーマンスをすると、双方とも株を上げることになるのに、なんて妄想していました。

これは、無料でブランディングしようというあざとい発想になってしまい、反省ですね。

 

笑ってしまったのは、この報道に絡んで、ある弁理士さんが地名とネーミングに関して、「豊田は地名だが、TOYOTAは製品のイメージが通っているので登録できる」とコメントしていたこと。

ご存じの方も多いと思いますが、もともと「豊田」は地名ではありません。

TOYOTA創業家の豊田さんの家業が発展したので、挙母市があとから豊田市へと改名したのです。

しかし、こうした歴史を皆が忘れていくと「地名なので商標登録できない」対象になる日が来るのか、とくに海外では(?)と思うとゾッとしました。

同じく、三重県鈴鹿市からの「本田市にしようと思うのですが♪」とのオファーをHONDAが拝辞したことは英断ですが、地名を社名にしたと思われる日が来るのを避けたかったのかもしれません。

 

■地域団体商標も一般的に

地域団体商標とは「地名+料理名」や「地名+工芸品名」のような名称の登録ができる制度です。

これを、地域の農協や漁協などの共益的な団体に限って認めようというものです。

上にも述べたように、地名は商標登録できませんので、どう考えても守られるべき商標が登録できないというケースが多くあったのです。

法律施行後も、登録の要件となる「広く地域ブランドとして認められている」という事実の証明が困難であったり、いまいちの商品や産品にそのブランドをつけて売られても止めることができない、などの問題もありました。

それらの問題や、さらに商工会や商工会議所などがスムーズに登録主体となれるなどの点が緩和されたりしながら、現在は根付いています。

 

 (地域団体商標の登録例)

若狭塗箸(写真)  江戸切子  小田原蒲鉾  黒部米  塩原温泉

新潟清酒  焼津鰹節  本場結城紬  千屋牛 草津温泉

広島かき  長門ゆずきち  下関うに  今治タオル  日田梨

 

■温泉県といえば……

香川県の「うどん県」に触発されて、大分県は「おんせん県」の商標登録を申請していましたが、認められませんでした

大分は別府や湯布院で有名な屈指の温泉地であり、その湧出量は日本一。

しかし、よい温泉があるのは他県にも当てはまること、というのが拒絶の主因のようです。

たしかに草津温泉がある群馬県や箱根、道後温泉などの反発があったといいますが、大分県も温泉のイメージを独り占めしようというわけではないのですね。

他県の使用を妨げるものではない、と発表していましたし。

 

ただ、同県が心配していたのは、一般の業者や中国に登録されることを懸念してのことです。

「うどん県」でパブリシティに成功した香川県も、じつは「讃岐うどん」は中国に商標登録されてしまっているのです。

ただ、こういう案件が起こるたびに思うのは、すんなり登録されていたらここまで話題にはならないということ。
この報道がされたことで、あらためて各県の温泉について考えさせられました。

これは、なによりの注目度アップの効用ですね。

次は、温泉のある県が連合で申請したらよいのではないでしょうか。

それと、あなたの県も「うどん県」や「おんせん県」のように登録できる名物はないか? と思いを巡らせてみるのもいいかもしれません

 

 

製造業のマーケティングコンサルタント、弓削 徹(ゆげ とおる)でした。

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