シーズ開発 vs ニーズ開発!

シーズ開発 vs ニーズ開発!

本記事では、商品開発におけるニーズ開発とシーズ開発をどのように考え、取り入れたらよいかについて説明します。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ニーズ開発 → 顧客へのマーケティング調査からニーズを汲み取り、開発する手法

シーズ開発 → 社内で新開発された技術を元(タネ)に、商品化につなげていく手法
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

まず、その現場実例を、弓削が広告制作に長く携わった電機メーカー2社の比較で見ていきたと思います。

 

E社は、マーケティング部門の発言権が弱く、技術開発部門(親会社)が「出す」と決めた製品をそのまま発売する流れが定着している会社です。

商品は、いつも目玉となるトンガリがなく、細かな多機能を搭載したモノが多い。広告を制作するときに、いつも何をウリにするべきか悩みました。

私の内なる心の声は、(多機能に逃げてるな…)。

 

一方、C社。
その新商品は、思わず「えっ?」と驚くほどの新機軸を打ち出してきます(価格も、あっといわせる大胆な値付け。というか買いたくなる価格ありきの決定)。

仮にマーケティング調査を重ねても、こうした新カテゴリーの商品をつくるヒントは得られないだろうな、と思わせられるものです


かつて、ソニーの盛田会長はいいました。「消費者へのマーケティング調査は必要ない。何ができるかを知っているのは我われだから」。

 

じつは、E社とC社ともにニーズ開発ではないのですね。つまりシーズ開発なのですが、同じ開発タイプでも、その実態はまったく異なっています。

 

E社は、開発部門がシーズにまかせて商品化する。市場性はあまり顧みられない。

これに対してC社は、生まれた新技術に単なる調査や積み上げでは出てこない特異なアイデアを載せてユーザーの人気をさらうのです。


「それって、たとえばどんな製品?」

実例、知りたいですよね。

 

C社は液晶技術に強みがあり、量産化にも成功。そこでデジカメの新製品に液晶画面をつけることにしました

当時、まだデジカメもファインダーを覗いて撮影するのがあたり前だったため、「それは機能の重複」「邪道であり、すぐに消える」などと業界内の評価はさんざんでした。

ところが、発売してみるとお客様が選んだのは同社の液晶画面付きデジカメのほうでした。同商品は大ヒット商品となり、それ以降は液晶画面つきデジカメが市場の常識になりました。

おそらく、マーケティング調査をしたら「液晶画面はいらない」という結果になり、このヘンな(?)アイデアは日の目を見なかったと想像されます

このような非常識な着想は、SONYがウォークマンを開発したときにも発動されたのではないでしょうか

 

次はニーズ開発の実例です。

市場ニーズを汲み取ろうと調査などをした場合(ニーズ開発)はどうなるのか

よく引き合いに出されるのが、自動車の誕生です。

ターゲットである旧来の馬車ユーザーに「どんな商品が欲しいか?」と聞いたなら、誰もが「もっと早い馬が欲しい」と答え、“自動車”のような荒唐無稽な新商品は出てこなかっただろう、とヘンリー・フォードが語ったとか。

 

マーケティング調査に重きを置きがちな外資系企業を代表して、ハンバーガーチェンのMの例を見てみましょう。

同社は、新メニュー開発の参考にユーザー・インタビューを活用してきました。

いつも目立つ回答は「野菜を使ったヘルシーなバーガーがあれば食べたい」

ところが、実際にヘルシーな野菜系バーガーをつくっても注文数はパッとせず、結局、人気を集めるのはいつものガッツリ系のバーガー、という笑えない話。

また、同社が数億円を投入して老舗のマーケティング調査会社と共に開発したのは、出展候補地を地図上でクリックすれば、予想客数と売上がパッと表示されるというスーパーツールでした。

しかし一時期、毎年数百店規模でのスクラップ(撤退)がつづいたのは周知の事実です。

恩恵を受けたのは、「Mが出ている場所なら通行者数の調査済みだから安心して出店できる」とするコバンザメ外食チェンだけでした。


さて。ということで、結局はシーズ開発とニーズ開発のどちらがいいのか

その解答は、「ニーズ開発のほうがヒット確率は平準化するかもしれないが、ブレイクスルーとなるような大ヒット商品は違うところから生まれてくる!」

まるでウルトラCのような発想で…、ということになるでしょうか。そこには、マーケティング調査などには頼らず、ユーザーの使い方を徹底的に研究するプロ技術者ならでは視点があります。

だいたい、“ウチで開発したヘンな技術”を生かさずに、市場の声にばかり耳を傾けていたら、どの会社も似たような商品を開発することになります

中小企業は、他社とは異なる土俵で勝負しなければ勝機はありません。

どこの会社もがマーケティング調査とコンサルティング会社のいいなりで商品開発していては個性というものも出てこない。

開発担当者のモチベーションも上がらないことでしょう。

 

ここで、人気漫画「バクマン」で、新人漫画家の指導にあたる編集者のセリフを引用します。

 

──ヒットする漫画家には2種類ある。
ひとつは、自分の描きたい世界を追求して成功するタイプ。天才というか天然だね。
もうひとつは売れる漫画とは何かを研究してヒットを飛ばすタイプ。
        一発屋では終わらないし、編集者としては楽だ。

でもね、ほとんどの人気漫画家が、前者のタイプなんだよね…

 

そもそも、マーケティング調査なんて時間のムダ、というのが私の主張ではあります。

好調な大手企業は、中小企業が想像するほどマーケティング調査なんかに頼ってはいませんし、調査をするとしても社内の無能な老害たちを説得するための補強データとして活用する目的のみです。

マーケティング調査の是非については、また記事を書きたいと思います。

 

 

製造業のマーケティングコンサルタント、弓削徹でした。

 

本コラムは、ものづくりの現場での気づきや日々の雑感、製造業のマーケティングや販路開拓に関するノウハウなどをお伝えするものです。 お気づきのことやご質問、ご要望などがありましたら、お気軽にメッセージをお寄せください。

ものづくりコラムcolumn