「商品開発物語」は信用できない

「商品開発物語」は信用できない

雑誌、テレビ番組、ビジネス書で語られる「商品開発物語」は信用できない!?
「なぜそうなのか?」について、本記事では6つの根拠を提示しています。

 

商品開発のセミナーで登壇しますと、多くのものづくり企業の方がたがご参加してくださいます。

意外なのは不動産会社やGMS(総合スーパー)などの店舗の人も参加していたりすることです。

まぁ、不動産会社も新規事業は立ち上げるでしょうし、流通の方がたもPB(プライベートブランド)を開発したりするでしょう。

にもかかわらず、商品開発のノウハウ本の市場は大きくないと評価されることが多い。

それは、商品開発の本が「手順本」か、「過去のヒット商品鑑賞本」くらいしかないからではないかと思うのです。つまり、本当に役立つ決定版がない。

 

「手順本」というのは、商品開発は企業のなかでこのような手順でやるものです、という指南本ですね。
日経文庫にありそうな本です。

「過去のヒット商品鑑賞本」とは、大手企業の過去のヒット商品を紹介し、なぜ成功したのかという要因を分析する内容です。

「あのヒット商品の内幕を語る!」なんていうタイトルで商品開発ストーリーの裏側がレポートされる記事や鑑賞本って、よくありますよね。

つい私も興味深く読んでしまいますが、この手の本って、信じちゃいけないなぁと思っています。テレビ番組でも同じです。

それを読んで自分たちの商品開発に生かしたい、ベンチマークとしたい、という気持ちはよくわかります。

「商品企画のテーマはこうやって見つけるのか」
「こうすればプロモーションがうまくいくのか」
「なるほど、プロジェクト失敗の原因はこれなのか」
などなど


皆さんも、「課題をそうやって克服、打開したのかー」なんて感心しちゃうと思うのですが、すべてを真に受けるのは危険かもしれません。


私が支援する企業が、ビジネス誌やドキュメンタリー番組に取りあげられたときに記事を読んだりテレビ番組を観ると、「あれ? こういうことでしたっけ??」と感じることが必ずあるのです。


担当者に確認すると、「あんなことは言ってませんよ」とか「ちょっと無理につなげられましたね」などと苦笑する結果に


なぜ、そうなってしまうのか?

その原因を整理してみました。

 

1・出る杭にはなりたくない

実際の商品開発プロジェクトでは、責任者=キーマンが重要な役割を果たします。ダメかと思えた次の瞬間、「解決策を見つけた」とブレイクスルーを起こす担当者がいればこそ、ものづくりは成功するのです。
しかし、これをそのまま伝えてしまうと自慢話のようになってしまい、「あいつ一人の手柄ではないはず」などと社内からの反発を生みかねません
組織が大きければ大きいほど、杭は出ることを好まず、やんわりと結束力をアピールする方がおトク、となって個人のパワーは隠されます。

 

2・本当のノウハウは社外秘

「このYouTubeのマンガ動画から火がついたんです」など、いまどきらしい面白い話にまとめているケースでも、実際の要因は別のところにあったりします。
それが営業部隊の押し込み力の強さでは絵になりませんし、他社に教えたくない手法であればもちろん社外秘
テレ東の企業紹介番組には中堅企業も数多く出てきますが、もっと凄いのに出てこない会社は無数にあります。
その理由には、「手の内を明かしたくないから」もある。
オープン情報で、すべての真実が語られることはないのです。

 

3・おヒマな上司が取材対応

たとえば大手企業では課長レベルが実動部隊のマネジャーであり、プレーヤーです。
役職はともかく、もっとも忙しい実力者ではなく、お時間に余裕のある上席の人間が取材を受けるのはよくあるパターン。
とうぜん、伝聞やペーパーでしか知らず、彼らから現場の熱気や本質を伝えるリアルなトークは聴けません

 

4・記憶は時とともに美化される

混乱のなかでプロジェクトが進んでいるときは夢中であり、とにかく走りながら考えます。
これが半年後に成果が出て、1年後に取材される頃には、生々しい記憶にもセピアがかかり、いろいろと都合よく整理されたり、塗り替えられたりするものです。
「あの作業はたいへんだった→あの努力はムダではなかったはずだ→いやあの努力こそが要因に違いない」などとと変化していく。
あなたの恋愛の記憶もそうではないですか。

 

5・当人も要因を知らない

2代目経営者が大ヒットを飛ばして注目されることがよくあります。
しかし、当人は1つの業界しか知らず、1つのヒットしか経験していない。
偶然に左右されることも多い商品開発プロジェクトを、1つの成功譚のみから普遍的に語ることはむずかしいでしょう。
自分では成功したことのないコンサルタントの事例集のほうがマシなのは、彼らが異業種でも参考にできる教訓として再現性のある骨子に読み替えているからです。

 

6・メディアはドラマを求める

メディアはクライマックスをつくりたいのです
たとえば、危機からの脱出や逆転劇を演出して読者・視聴者を熱くさせたい。そこで、つい盛ってしまう。
「プロジェクトX」も、それで終了したわけです。それでなくても、取材される企業にも、取材するメディア側にもいろいろ都合や思惑がありますからね…。
誌面や番組内で、当初から狙いが決まっていたりするなかで、どうしても恣意的な方向性をつけられてしまうことは避けられません。

 

以上のような理由により、「ヒット商品開発の舞台裏」は、話半分に聞いておく必要があるのですね。

弓削は、手順でも、鑑賞でもない、商品開発のテーマを見つける方法について本を書けるのですが、どちらか出したいという出版社さんはないですかねぇ(笑)。

 

 

 

製造業のマーケティングコンサルタント、弓削でした。

 

本コラムは、ものづくりの現場での気づきや日々の雑感、製造業のマーケティングや販路開拓に関するノウハウなどをお伝えするものです。 お気づきのことやご質問、ご要望などがありましたら、お気軽にメッセージをお寄せください。

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