製造業のサービス化を考える

製造業のサービス化を考える

ものづくり、製造業のサービス化を模索する動きがあります。

 

当然のことながら、ものづくりとは技術を磨いて製品をゼロイチで生み出すビジネスです

製品を作り出して、「1個いくら」で販売する。

10年ほど前に、顧客開拓のできないコンサルタントを指導するコンサルタントをしているある人は、私が製造業専門のマーケティングコンサルタントをしていると知ると、次のようなことを言いました。

「いまどき、部品をつくって1個数十円で売るビジネスなんて終わっていますよ」と。

この言い様は、「では、指導してください」と私に言わせるための安っぽい挑発に過ぎませんが、利幅の低いことに悩むものづくり企業は少なくありません。

近年は「モノよりコトだ」なんて、説得力のあるフレーズもよく耳にします。

 

■サービス化は収益性の改善につながる?

流通の事例ですが、イエローハットが、長年後塵を拝していたオートバックスをついに抜き去ったのも、タイヤ交換などのサービス展開を強化したからでした。

ものづくりのビジネスモデルを、コトを売るビジネスモデルへと転換することを、「サービタイゼーション」といいます

では、私たちはモノに固執することなく、コトを広げるサービス化に賭けていくことが正解なのでしょうか。

 

ある町工場の事例ですが、自社の工作機械がはきだす部品の流れが止まったときにスマホに通知が届くシステムを社内で開発。

自社工場における生産過程のダウンタイムを最小化するとともに、他社へもシステムを外販しています。

このシステムの特徴は、高度なセンサーなどは使用していない、いわばメカトロニクスであるところ

つまり、部品の排出口に枯れた光センサーを設置し、部品の流れが光を遮らなくなると通知メールを発出するだけの簡易なものなのです。

IoTには違いないのですが、なんだかコロンブスの卵だと思いました。

大手企業の生産管理の人なら、もっと高度で複雑なセンシング・システムを考案したのではないでしょうか。

 

「AIがシンギュラリティを迎えるのはいつか」なんて、茶飲み話としてはうってつけなのですが、AIの現状能力の延長線上ではそんな話はありえません。

あくまで、すぐれた単機能なのです、AIは。

してみると、その超人的な単機能を生かして生産現場を高度化する、そんな使い方を柔らかい頭の人がどんどん発想してくるのではないかと想像したりします。

たとえば、機械が故障する前に「このパターンは故障する流れね」とAIが感知して、メーカー担当者のスマホに交換部品の発注を指示する……的な。

何が言いたいかというと、結局は有効なサービスとはものづくり技術の手のひらの上にあるのではないかということなのです

 

■技術のためにサービス化がある

町工場などの加工下請けは、広い意味ではサービス業です

金属の部品を引き受けてきてメッキしたり、研磨したり、穿孔して返すような仕事ですね。

製造受託(EMS)、組み付け、組み立てなどは、自社にとっての「製品」「商品」はなく、加工サービスを売っているのだといえます。

一方、生産設備や建設機械、農機具などを製造・販売しているメーカーは、その使いこなしやメインテナンスについてのサービス契約などを結んでいます

万一の故障時に修理をすることはもちろん、省エネなど稼働状況の監視、消耗品や部品交換期の予告をすることで、生産性を高める付加価値を提供しているのです。

これは、サービス化の典型事例のように見えて、じつは使い勝手にまで目を光らせることで、次の商品開発の精度アップをはかっていると見るべきだと思います

さまざまな手法でビッグデータを得ようとするのも、結局はものづくりにおける優位性を手に入れようとしているのではないでしょうか。

 

単純にいえば、リース販売をはじめることもサービス化です。

パナソニックの家電が、使いはじめたときは「ここは不便なのでは?」と思った仕組みが、少し使いこんでみると「こうでなくちゃダメなんだ(泣)」とユーザーが理解するように、先回りしてつくってある

それも、広い意味でのサービスです。

 

正直、アタマのいい人は製造業にいます。サービス業や流通業、ましてや金融・不動産ではない。

サービス業に従事する人が、時間が経つと使える人になるのって、じつは「いいモノ(道具、機械)」が用意されているからです。

それをつくったのは? もちろん、製造業の人。

国内産業の生産性を高めているのは、製造業です。
つまり、高効率なのです。

建築現場などでは熟練ユーザーが減り、クレーンが容易に倒れるなど、従来では考えられない事故が起きたりします

それを防ぐ新機種を開発して送り出していくのも、メーカーの使命です。

 

 

■自社と市場を円環として捉えよう

ユニークなアイデアの工業製品、雑貨の開発・生産をしているあるメーカーは、つい頼まれるままに地元のボーリング場を買収しました。

社長さんは運営してみてはじめて、気がついたそうです。

「サービス業は分が悪いですね。ちょっと雨が降ると売上げ激減ですよ。工場は計画通りに生産できるのに」

 

サービスの問題は属人的であることです。

生産現場では、一度、ラインを高効率にできれば、あとは淡々と積み上がっていくのに対し、サービスはAさんとBさんとでまったく結果が異なります

デキるAさんが辞めてしまったら、同等のスタッフを育てるまで混乱が続くかもしれません。

仮にサービスビジネスの収益率が高くても、それは個人に属するものであったりするわけです。

製造業は、サービス化をするとしても、あくまで製造の周辺にとどめるべきなのかもしれません

そうしてこそ、顧客に喜んでもらえてリピートを生み、ユーザーデータを蓄積することができ、次の独自な付加価値へとつなげることが可能になるのです。

 

そして、それは前か、後ろか。

前とは、新規事業や新製品開発に際して判断基準を持っていること、アイデアを持っていること

あるいは、機器導入に際して助成金の提案と申請までを丸投げで請け負える、など。

そうした架け橋的な機能は尊ばれ、選ばれる要因となります。

後ろとは、製品を使いこなすためのアフターサービス、使用最適化の診断など。

そして、「後ろ」で得られるデータと知見は、また「前」につながっていきます

 

「サービス化」するかどうかというような近視眼的な検討ではなく、自社と市場とを連続する円環で見据える「鳥瞰的な視野と感覚を持てるか?」ということこそが、あなたの会社を伸ばすキーになるのだと思います。

 

 

製造業のマーケティングコンサルタント、弓削 徹(ゆげ とおる)でした。

 

本コラムは、ものづくりの現場での気づきや日々の雑感、製造業のマーケティングや販路開拓に関するノウハウなどをお伝えするものです。 お気づきのことやご質問、ご要望などがありましたら、お気軽にメッセージをお寄せください。

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