ネーミングの失敗2

ネーミングの失敗2

今回は、ネーミングしたものの定着しなかった事例、あるいは商品やサービスのイメージを伝えそこねたネーミングのせいでビジネス自体が失速してしまった例についてお伝えします。

なかには、ネーミングそのものは失敗なのに、他のパワーによって成功しているビジネスもあります。

 

10■根付かなかったネーミング

 

山手線新駅の名称は[高輪ゲートウェイ]に決定しました。

悪評サクサクのネーミングですが、なぜ唐突に「ゲートウェイ」が出てきたのでしょうか。

じつは2016年から「グローバルゲートウェイ品川」という再開発プロジェクトがつづいており、当駅はその中核施設です。

くわえて、近隣には「品川インターシティ」や「大崎ニューシティ」などの商業施設ネーミングもあり、決定権を持つ人たちに「カタカナもありではないか」と考えさせる素地ができていました。

あえて、このネーミングを弁護すると次のようになります。

・時間がたてば慣れてしまう
・新機軸の決定は責められがち
・所詮、一私企業のネーミング案件

 

仮に単純に「高輪」「芝浦」などと命名していたら、これほどメディアで取り上げられることもなかったでしょう。

「芝浜」とネーミングしていたら、「よくやった」と褒められる反面、「絶対におかしい」という意見も殺到したでしょう。

ネットで炎上するとき、火をつけて回っているのは全体の2〜4%に満たないボリュームであるとはよく言われること。
超少数派の意見に耳を傾けるのは非効率ですし、本質から外れています。
そもそも、駅名とは地名に準ずるもので意味はなくてもいいのですね。

ですから、今回のネーミングの瑕疵は次の1点となります。

・長すぎる

 

名古屋に行くと、「名古屋駅」すら長いため、地元の人は「メイエキ」と省略(?)しています。
今後、「高輪ゲートウェイ」が省略されて「タカゲー」なんて呼ばれるようになったりするのでしょうか。

 

11■大人の都合は通らない

 

高輪の例のように、「上から押し付けられる」と支持が得られず、定着しない運命をたどるネーミングは過去にもありました。

[E電]
民営化時に国電から愛称変更になったのですが、まったく定着せず、いまは[JR]と呼ばれています。

 

その他にも、いろいろ。

[ビッグエッグ] 東京ドーム

[ビッグバード] 羽田空港

[ビッグハット] 赤坂TBS

[T-CAT] 箱崎シティエアターミナル

[パールブリッジ]  明石海峡大橋

 

東京ビッグサイトは無事ですね。

[レインボーブリッジ]がネーミングされたときは、「うそだろう?」とぼうぜんとしましたが、愛称ではなく正式名称なので流しようがありませんでした。

[バスケットボールストリート]
渋谷のセンター街が、「バスケットボールストリート」とネーミングされたのですが、こちらもまったく定着しませんでした。

バスケットボールの試合もおこなわれる代々木体育館に通じる道だから(?)という理由だそうですが、ちょっと唐突な感じは否めません。

 

渋谷、原宿、青山界隈には、愛称・異称のついた通りは他にもいくつかありますね。

ファイヤーストリート
骨董通り
キラー通り
スペイン坂
キャットストリート

かつての粋なストリート・ネーミングは、その多くが雑誌編集者や広告クリエイターたちの会話から、自然発生的につけられたもの。

ストリートの愛称は、ジワジワと発生するものであって、大人たちに上から言われるものではないようです。

[バスケットボールストリート]についても、上から目線の命名ではなく、もっとゲリラ的なやり方もあったのではないかと。

たとえば、代々木体育館のバスケの試合に合わせてバナーを掲出する。
スポーツショップに協力してもらって、バスケットボール関連のディスプレイを目立つ場所に置く。
通りに隠されたバスケットボールを探すゲームに若者に参加してもらう。バスケファッションの外国人を歩かせる。これらをメディアに取材してもらう。…これは、大手代理店のやり方ですけれどね。

 

変わったところでは、暴走族を[珍走団]の異名で呼ぶという動きもありました。

[母さん助けて詐欺]は、[オレオレ詐欺]あらため、なのですが、いまは振り込め詐欺か特殊詐欺で定着しているようです。

 

12■イメージと合致しないワード

 

ネーミングを変えてヒットした商品は以前、お伝えしました。
ここでは、今後、ネーミング変更してもよいのではないか(あるいは手遅れ)と思われるネーミングについて事例を挙げてみます。

 

[ぐるなび]
言わずと知れた飲食店ポータルですが、後発の[食べログ]に登録会員者数でもアクセス数でも負けています。
原因は「グルメ」を省略したために飲食イメージが消えてしまったことだと思います。
[食べログ]は食べるイメージが伝わりやすく、想起されやすい。
結局、飲食店ポータルのデファクトになって、アクセス数では[ぐるなび]の2倍です。

[Spotify]
音楽配信サービスとして成功はしていると思いますが、日本語的感覚では「スポーツ」系のサービスのように響きます。
英語の意味としても、「spot」を持ってくる意図がわかりません。イメージにぴったりのネーミングをしていたら、会員獲得はもっとラクだったでしょう。

[スマップ/SMAP]
もう、解散してしまいましたが、国民的アイドルグループです。
ネーミングの響きは、子供用のおもちゃなどのものです。ジャニーズ事務所は文句なく成功しているのでよいのですが、グループ名のネーミングはどれもセンスを欠いています。

[サイエンス・ダイエット]
ペットフードの商品名です。なのにサイエンスでダイエットですから、ソンをしていますね。ヘルシーなら、「ペットの健康」をわかりやすく伝えるネーミングでありたいです。

[ウェルスナビ]
資産運用サービスなのに、健康管理サービスのようなネーミングです。ウェルス(wealth)は「富」という意味ですので、まったく間違ってはいないのですが、well(‘s)のことと受け止められてしまいます。

[メルカリ]
こちらも成功組ですので大きなお世話なのですが、「〜カリ」とついているのでレンタルサービスのネーミングとなっています。個人売買の雰囲気が伝わるネーミングであるほうがベターですね。

[黒漆]
これはネーミングセンスの問題ではありません。
象印が漆仕上げの製品に[黒漆]とネーミングして、商標登録もしました。ところが、一般の漆業者らが「普通名称ともいえる呼称を商標登録されては困る」と訴えたため、のちに象印が放棄したものです。これは業界の慣習などを知らないままに登録してしまった失敗です。

[Lifork]
シェアオフィスの名称です。LifeとWorkを合体させたネーミングですが、字面で見る限り、その意図は伝わりません。forkが強すぎるのですね。
あまり机上で考えを詰めすぎると、こうした結果になってしまいます。

[フレンテ]
これは[湖池屋]が2002年に社名変更したときのネーミングです。ところが、新社長就任に伴って2016年に旧社名である[湖池屋]に戻りました。
あまり知られていない変更劇だと思いますが、「フレンテ」のような軽いネーミング、社員もイヤだったんじゃないでしょうか。社名はとても重要ですから、あとでいくつかの記事を書く予定です。

[クルーム]
西鉄ホテルの名称です。ホテルなのに、クレーム、いやクルームでした。

 

……以上の事例は、数多く露出している──、つまり成功しているから私も気づいたわけです

ですので、隠れた失敗はもっとどこかにあるのでしょうし、例示したネーミングも致命的なエラーとはなっていないわけです。

 

 

製造業のマーケティングコンサルタント、弓削 徹(ゆげ とおる)でした。

 

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