ネーミングの失敗 1

ネーミングの失敗 1

グローバリズムの概念も、時の情勢によって変化します。
つまり、グローバリズムが行きすぎればナショナリズムへと収れんし、その反省からまた国際化へ舵を切る、というようなことです。

中小企業もいつ海外展開をするかわかりませんし、越境ECもどんどん簡便になっていくでしょう。海外からの渡航者も、いつかまた増加に転じることにもなるわけです。

ネーミングも、多国籍に対応していかないと問題になるということで、そうした失敗事例を見ていきたいと思います。

 

7■外国語のワナ

 

いろいろな事例がありますが、有名なところでは[ポカリスエット]ですね。sweat(汗)が入った飲み物か?という誤解を呼びます。英語圏では[POCARI]というネーミングで販売されています。

同じドリンクでは、[カルピス](そのまま発音するとcow piss(カウ・ピス<牛のおしっこ>)を飲むのか?)ですね。英語圏ではカルピコ[CALPICO]というネーミングに変えて販売されています。

[モスバーガー]も、同音のMOSS(苔)が気になって、今のままではきびしいでしょう。
ブランドネーミング、看板を変えたほうがいいと思いますが、英語圏ではすでにオーストラリアで数店舗を展開中です。

 

その他でも、グリコの[ポッキー]は、「あばたのある」とか「さびしいヤツ」のようなニュアンスになります。

また、「Pocky」という表記は、イスラム圏ではPorkを連想させるので食べ物のネーミングとしては問題ありです。そのため、海外では[Rocky]に変えて売られています(フランスでは[Mikado])。
さらに同社は数年前、バレンタイデーに合わせて[Sukky](好っきー)という限定パッケージを発売。これにもドキッとしてしまいました。英語圏では「サッキー」と発音され、「sucker」と同じような意味になるはずだからです。「吸う(しゃぶる)ヤツ」というニュアンスです。

同じグリコの[コロン]は、「大腸(colon)」と同じ発音という残念さ。その気で見ると、管のような形状もそのように見えてきます。

むかし、「クリープ・ショー」というホラー映画がありましたが、これは「忍び足で動く、人をゾッとさせる」という意味のcreep。森永の[クリープ(Creap)]はこれと同じように聞こえてしまいます。

 

8■海外市場が主戦場のはずが…

 

クルマは輸出産業ですので、とくにネーミングには気を遣ってほしいのですが、なかなかそうもいかないようです。

三菱自動車は事例が豊富です。

まず、[パジェロ]はスペイン語では自慰をする人。欧州では[Shogun]のネーミングで販売されています。

[レグナム]は「leg numb(足が痺れる)」の意味に聞こえてしまいます。

ミラージュのなかの[ディンゴ]は動物のディンゴからとっています。このディンゴが非常に獰猛な動物で、オーストラリアでは人間の赤ちゃんが襲われる事件も起きています。

 

つづいて、日産[フーガ]はイタリア語では遁走、逃走の意味。
クルマに似合うかどうかは微妙ですが、英語圏では「腐りかけたマッシュルーム」を連想させる言葉でもあるそうです。

マツダの[ラピュタ]は、スペイン語圏では売春婦の意味です。
アニメ映画「天空の城ラピュタ」も同じことになりますが、もともと「ラピュタ」はスウィフトの「ガリバー旅行記」に出てくる王国の名に由来しています。
しかし、スペイン語を話す人口はバカになりませんので、海外でのタイトルは「キャッスル・イン・ザ・スカイ」に変えられています。

そして、スズキの[ハスラー]
いわずとしれたポルノ雑誌ですね。なぜ、ネーミングしたのでしょうか。賭けビリヤードでインチキする人、の意味合いもあります。

ダイハツの[ネイキッド]は、「裸、全裸」のこと。女性ユーザーは乗りづらいかもしれません。

いすず[ビッグホーン]は、大角鹿のことなのですが、hornは男性器を表します。hornyとなると「いやらしい、スケベ」の意味です。

こうしてみると、トヨタ、ホンダにはそうした失敗がないのはさすがですね。

 

LCC、つまりローコストキャリアも当たり前になりました。

まず[スターフライヤー]。エールフランスのマーケティングを担当していた経験からいいますと、航空路線で「スター…」といえば夜間便のことを指します。
同社名を聞いた人は「夜間便専門の航空会社かな」とカン違いすることもあるでしょう。

そして、[ピーチ・アビエーション]。ユニークな社名ですが、英語圏でピーチはゲイのイメージです。[レインボーブリッジ]のレインボーもゲイ・カラーですね。

航空会社は外国人に利用される機会も多いため、念を入れたほうがいいですね。

 

海外にもうっかりな事例はあります。

下ネタばかりで恐縮ですが、フォードの車[コメット]はメキシコのスラングでは売春婦のことです。

化粧品メーカー、クレイロール社の[ミスト・スティック]
ドイツ語でミストはくだらないもの、クソのこと。ですから、「……のスティック」ということになります。
また、ロールスロイス社には[シルバー・ミスト]という車種がありましたから、こちらは「銀色に輝く……」。

 

石油会社の米国エクソン社(現エクソン・モービル)は、社名を変更する際、候補案のなかからエンコ社で決定していました。
しかし本社が多角的に調査したところ、日本では「クルマが動かなくなる」という意味があることを突きとめ、寸前で変更したのでした。

 

9■ネーミングで倒産の危機

 

かつて高度成長時代、日本は玩具のアウトソーシング国という一面を持っていました。

ネーミング作成に携わる人は知っている事例ですが、かつて米国企業が日本の玩具メーカーに人形の製造を発注したときの話です。

米国人バイヤーが持参したデザイン画に基づいて、日本のメーカーがサンプルをつくりました。

再来日したバイヤーはサンプルのできばえに満足し、人形に適当な愛称をつけるよう依頼するとともに、クリスマス商戦に間に合わせる条件で大量発注をします

従業員20名ほどの玩具メーカーは社員で知恵を出しあい、[Miss pipi]というかわいらしいネーミングをつけました。

その名前をパッケージ箱と取説に印刷して見本品1セットを発送するとともに、全量を船便で出荷する準備を進めます。

 

そこへ、米国側から「pipiは不適当だから採用できない、名前は[Josephine(ジョセフィン)]に変更するように」との緊急連絡が入りました

玩具メーカーの社長は、死ぬほど驚きます。

ぎりぎりのスケジュール進行になっており、パッケージや取説の印刷のやり直しに日数がかかればクリスマス商戦に間に合わず、大量発注がキャンセルになってしまうからです。

そうなれば、かけたコストを回収できず、倒産してしまいます

社長は必死になって印刷のやり直しを手配したのち徹夜で再梱包をし、なんとか船便に間に合わせました。

なぜ、[pipi]がいけなかったのか。
そうです、pipiとは英語圏で「おしっこ」という意味の幼児語です。
かわいい人形の愛称ネーミングには適していません。

笑い話のようなエピソードですが、現代の製造業でもありえる失敗例だと思います。

 

以上のように、国内ではよいイメージの言葉も、海外では忌み言葉や下品な響きとなることがあるのです。
海外との垣根がますます低くなっているいま、ネーミングのネイティブ・チェックには念を入れることが求められています

いつ、どこの言語圏が市場となるかわかりません。

ネーミングはキャッチコピーとは異なりガラパゴスを通すわけにもいかず、国際感覚に敏感でなければならないのですね。
(まぁ、あまり気にしていては「福岡から来ました」とも言えなくなってしまうのですが)

 

 

製造業のマーケティングコンサルタント、弓削 徹(ゆげ とおる)でした。

 

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