相談事例に学ぶケーススタディ①

ニーズのないところにニーズがある?
2つの相談事例から読み解くマーケティングの視点
本記事は、セミナー後や公的支援機関の相談会で実際にいただいたご相談事例をもとに、その回答をあなたのビジネス課題のご参考にしてもらおうという内容の第1回です。
事例1:オゾン消臭剤――「臭い場所」にニーズはない?
オゾンを活用した消臭剤をつくっている会社さんからのご相談です。
オゾンの力で強力にニオイを除去できる液剤を開発、悪臭が課題になりやすい公共トイレや介護施設などをターゲットに営業をかけているものの、なかなか採用されないというお悩みでした。
ここで私が提案したのは、「ニーズがないところにこそ、強いニーズがあるのではないか」という視点です。
たしかに、公園の公衆トイレや介護施設はニオイが気になる場所かもしれません。しかし、利用者や運営組織の多くは「ここは臭くても仕方がない」とあきらめており、おカネをかけて改善しようという課題感、モチベーションも予算も生まれにくいのが現実です。
では本当のニーズはどこにある?
それは「絶対に臭ってはいけない場所」、例えば高級な和食店や寿司店です。本来は無臭であるべき清潔な空間なのに、長年の営業で排水溝周りに染み付いた魚の油分などが下水臭や腐敗臭を放ってしまったらどうなるでしょう。
お店の評判に関わる死活問題であり、「どんな手を使ってでも今すぐ消臭したい」という非常に強いニーズ(緊急性)が発生します。
つまり、最初からニオイが許容されている場所ではなく、「ふだんはニオイがない(あってはならない)場所」にこそ売り込むべきだ、というアドバイスをさせていただいたのです。
事例2:熱海のチョコレート――「モノ」ではなく「物語」を売る
次のご相談は、温泉地・熱海で土産用の食品加工を手がけるメーカーさんです。
新しくお土産用のチョコレートを開発したものの、どのように売ればいいかという内容でした。
商品の特長を訊くと「味はビターだが、口どけが非常にスムーズなところが特長」とのこと。
チョコレートは33度では溶けず、34度になると溶け始める様に設計されていることが多いそうです。
口溶けのよさを生かすとしたら……
「34度で溶けるなら、『34℃』というネーミングはいかがですか?」と提案したものの、すでに「渚のレンガ」という商品名が決まっていました。
熱海の海岸近くにある歴史的な公園の敷石(レンガ)を模した形状だから、というのがその理由です。
率直に言えば、観光客が熱海に来てわざわざチョコレートを買って帰る理由は乏しい。干物などの海産物や温泉饅頭といった定番がありますし、美味しいチョコレートを求めるならネット通販で好みのブランドを買えばいいのです。
しかし、熱海といえば、あの寛一・お宮の『金色夜叉(こんじきやしゃ)』で知られる土地柄です。
そこで提案したのが、「物語(ストーリー)を売る」というアプローチでした。
小説・ドラマ『金色夜叉』の舞台であるイメージと、商品の味が「ビター(苦い)」であることを生かし、こんなストーリーを描いてはどうかという提案です。
「悲恋に泣く二人が、愛を語らいながら涙とともに踏みしめた公園の敷石。その切ない想いを込めてつくったビターなチョコレート」

パッケージの裏面や店頭POPでこの物語を伝えれば、お客様は単なるチョコレートを買うのではなく、「熱海の悲恋の物語」に共感し、それを買って帰ることになります。
企業の歴史や事実を偽ることは許されませんが、商品に魅力的なバックストーリーを付与して販売のテコにする「ストーリーマーケティング」は、とても有効な手法です。
まとめ:視点をズラして「真のニーズ」を発見する
当たり前の常識や、顕在化している市場が正しいターゲットであるとはかぎりません。視点を少しズラすことで、誰も気づいていなかった「真のニーズ」や「新しい価値」を発見できることがあります。
ぜひ、あなたの商品でも「本当のニーズのありか」「そこに刺さるメッセージ」をもう一度、考えてみてください。
製造業マーケティングコンサルタント、弓削 徹(ゆげ とおる)でした。
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