参入障壁のつくり方 7つ
参入障壁を、私たち中小製造業がどのようにして構築するか。
本記事では、参入障壁を築くために中小製造業がとるべき7つの対策をご紹介します。
参入障壁を中小製造業が構築する方法
1 シーズを生かす
2 ニッチな市場を選ぶ
3 コストダウンする
4 マネされる技術の先を行く
5 衰退産業に居残る
6 面倒くさい技術を磨く
7 知財を意識する
参入障壁について概覧するため、まずはペイパル創業者として知られるピーター・ティール氏の唱える市場独占4つの特徴をご紹介します。
・特権技術
・規模の経済
・ブランド力
・ネットワーク効果
いずれも、もっともな項目です。
しかし、大手企業の成功している事業部を「評価したら、これが参入障壁となっていました」という後付けのようにも聞こえます。
つまり、追随を許さない技術(知財)を持て、スケールメリットを出せ(つまり原材料を大量購入する?)、ブランド力を高めろ、などはどの会社も実現したいことですね。
ネットワーク効果についてはどうでしょうか。
たとえばネットワーク外部性を利用できるビジネスを展開すると、先行者利得が強力に発生します。
「ネットワーク外部性」とは、「他の人も同じものを使っていると便利さが増す」性質の商品・サービスです。典型的な商品は、携帯電話や、かつてのファクスであり、いまならSNSのLINEやFacebookのようなサービスですね。
まぁ、いずれもシンプルに言って「それが狙い通りにできれば苦労はない」というような参入障壁です。
なんだか、「飲食店で成功したければ、銀座に出店し、美味しくて食べ飽きない名物メニュー(インスタ映えもする)を出せばいいのです」と言われているような気がします。
それより、参入障壁を中小製造業の努力によって実現できる要素について考えてみたいと思います。
1 シーズを生かす
市場や事業の選択段階において、「圧倒的な技術を開発できたので事業化する」というのはいいことです。
他社にとっては技術的に参入障壁が高いが、自社にとっては蓄積してきた技術の延長線上にあるのでむずかしくない、コストもかからず有利だ、…これが選択すべき事業のひとつの要件となりえます。
すなわち、市場ニーズではなく自社のシーズ開発です。
別の言葉で言えば、ストレッチです。
これは、弓削がいつもニーズ開発よりシーズ開発をするべき、と唱えていることとも共通します。(でも、ふつうのマーケティング専門家はほとんど「ニーズ開発をせよ」が定説ですが)
およそ、自社の得意技術、蓄積してきた技術を生かすから、製品に個性が出ます。
時節遅れのマーケティング調査に基づいて、各社が同じような製品を開発するのなら、それはウチじゃなくてもいいのです。
オリジナリティがいらないなら、ヨソの会社にやってもらえばいいのです。
「開発担当者が欲しいものをつくる」のがいいとまでは言いませんが、自社の強みを生かさないで、どこに独自の勝機があるでしょうか。
ただし、シーズを生煮えのままで商品化するのではダメです。
そのシーズならではの刺さるターゲットの切実なニーズを満たす商品に仕立ててこそ、価値ある商品が生まれます。
2 ニッチな市場を選ぶ
巨大市場も成長市場もオススメしません。
成長市場であれば一時期はよいのですが、長く安定して稼ぐことはむずかしい。
巨大市場同様、大手企業が必ず参入してくるからです。大きな市場性を求めて、多数の人材や資金が集まってきてしまいます。
年間で1,000億円の市場規模があれば、ヤツらはやってきます。
そして、さらに新興国の企業が、首をひねるような低価格で参入してきて、その市場自体を破壊してしまうのです。
仮に市場を創造しても、ダントツの技術開発をしてもダメなときはダメです。
たとえばソニーが家庭用ビデオを開発したときはどうだったか。
すぐに、似た技術を開発した別のメーカーが参入し、結局市場をとられてしまいました。
あるいは、ウェブサイトを閲覧するブラウザソフト、「モザイク」、そして「ネットスケープ・ナビゲーター」を開発した先行ベンチャー企業はどうなったか。
マイクロソフトに同様のソフトを開発され、基本OSに無料バンドルされたために、かき消されてしまいました。
この観点から、次のようなことを主張したいと思っています。
「誰が買うの?」と問われるような商品をつくる。
これは言い換えればニッチな市場に居場所を求めることが参入障壁の構築になります。
日本には、知られざるグローバル・ニッチトップ企業がたくさんあります。
今年、経産省が発表した「グローバルニッチトップ企業100選」には、次のような製品で選定された企業を見つけることができます。
「水晶振動子製造工程用の周波数調整装置」
「半導体マスク欠陥検査装置」
「インパルス巻線試験機」などなど
いったい、誰が買うのでしょう(笑//もちろん必要とする企業群が存在します)。
まぁ、シンプルに言えば、他所がつくっていないニッチな部品をつくれば、発注元はスイッチングコストが高くなり、メーカーをカンタンには変えられなくなります。
3 コストダウンする
あなたの会社が適切にコストダウンをして、その利益を顧客と“分け合え”ば、参入してくる企業は減ります。コストをかけて製品開発をしても儲からないという事実は、参入障壁です。
価格を決めるとき、ユーザーが得られる利益のみに注目して高めの価格設定をすると、後追いメーカーを呼び寄せることがあります。
たとえば、高反発マットレスのエアウィーブ。
同製品は、太い釣り糸をつくる際に出てしまう失敗作から着想を得てつくられたものです。
(真っ直ぐな釣り糸を製造する過程で、グジャグジャになってしまう失敗分をベッドマットレスの「スプリング」として転用するアイデア。高反発なので寝返りが打ちやすく、熱がこもらないので夏場は涼しい)
同社は、この革新的な商品には3万円の価値があるとして価格を設定しました。
しかし、原材料は数十円の樹脂であり、決して工程もむずかしいものではありません。
結果として、大手から中小までたくさんの企業が後追い参入をして値崩れが起きました。
つねにコストダウンをはかり、適正な利益を得るという立場をつらぬければ、それは後追い企業をはねつける参入障壁となるでしょう。
4 マネされる技術の先を行く
新商品開発の相談に乗ったら、完全な後追い商品だとわかってがっかりすることがあります。
もちろん、かつては私たちも欧米のマネをして市場参入を果たしてきたのです。
日本製は、安かろう悪かろう、とされていました。
そうしてマネをやめていき、やがてマネをされるようになりました。
いつもマネをされることを嘆く会社さんも周囲にたくさんあります。
樹脂で射出成形されるものや、金属プレス加工で製造されるものは、どうしても新興国などに容易に模倣されてしまうものです。
ドイツの「プラギアリアス大賞」では、あきれるようなデッドコピーの数かずが紹介されています。
無責任な言い方に響くと思いますが、こんなふうにあからさまにマネされるのも、それはそれでよい商品、市場性の高い商品を開発できたということの証しですから、喜んでもいいことです。
価値が高いと認められたからこそ、マネされるのです。
いいえ、むしろマネをされるものをつくってこそです。
ただ、マネされる商品の先には、マネをしたくてもできない製品があります。
それを開発することができれば、後追い参入に悩まされることもなくなり、何よりの参入障壁となるわけです。
5 衰退産業に居残る
時代が変われば、主要なビジネスも移り変わります。
新たなビジネスが生まれれば、その一方で不要になるビジネスがあるのです。
そして、市場は縮小しながらもゼロにはならない性質のビジネスの場合、先行者利得ならぬ残留者利得が発生します。
競合企業がどんどん脱落、廃業していった結果、気づいたら国内にはウチとあと1社しかない(!)という状況になったりするのです。
そうなると、限られたユーザーが限られた会社に殺到することになり、言い値でのビジネスが成立したりします。
産業が衰退した原因がイノベーションの不在であったり、ユーザーに寄り添うサービスができなかったから、という場合、そのボトルネックを解消すれば少々の成長すら望めます。
例としては、「畳の表替え」という衰退産業で、真夜中にサービス提供をして爆発的に業績を伸ばしている会社があります。
和風の料理店や居酒屋などは、畳を新しくしたくても日中は営業しているのでできず、困っていたのです。
このユーザーニーズに寄り添うだけで、一人勝ちの状況になれたわけです。
その他、レコードプレーヤーやレコード針の生産なども、マニアにとってはなくてはならない商品ということになります。
もちろん、衰退市場に新規参入せよとは言いにくいので、現在の市場が衰退していくことが前提です。
衰退産業とストレッチを掛け合わせた事例としては、自動車教習所のケースがあります。
ご存知のように若年人口が減り、クルマに乗りたい人も減っているなか、自動車教習所は見事な衰退産業です。
ここで、ある教習所が取り組んだのが、「ドローン教習」。
活躍の場面を拡大しているドローンの操縦法を教習するクラスをはじめたのです。
先生を手当てするだけで、あとは場所も集客もクルマ教習と相乗りできるわけですから、有利です。
これは既存の教習所ではないふつうの企業にとっては参入障壁が高いですし、教習所そのものは全国で閉鎖が相次いでいるので競合も増えづらく、うまいストレッチであると言えます。
6 面倒くさい技術を磨く
あなたの会社が得意とする技術分野において、特筆するまでもない枝葉のノウハウを蓄積していることは価値になります。
逆に言えば、新規参入者が地味に困るのが、解決しても仕切れないほど積み上がっている、当たり前の枯れた技術です。
たとえば、三菱重工のスペースジェット(旧MRJ)は、いまだに飛んでいません。
その原因はいろいろありますが、航空機開発の技術継承が大東亜戦争によって一旦、断たれているため、当たり前の末端技術の見落としをなくせないことが大きな要因だといえます。
高度というより、慣習や押さえておくことが当然の処理技術などの蓄積が失われているため、コア技術だけで進もうとすると、どこかが小さく破綻して足を引っ張るのです。
また、キレイに稼ぎたい大手企業などが参入しづらいのは、対象ユーザーを1軒1軒回って頭を下げ、回収しなければならないリサイクル加工事業のような業態だったりします。
子会社や外注会社を使って参入してきたとしても、競合の「やらされている」現場スタッフの勝ち味は薄いといえるでしょう。
「めんどうなこと」を積み上げてきた実績は、誇るべき参入障壁となりえるのです。
7 知財を意識する
新規参入を防ぐ防波堤として、特許などの知財は最初に取り組むべき項目だと一般のコンサルタントは主張することでしょう。
しかし、コストがかかることや、得意分野が合致する弁理士と出会えないことなどから、中小企業が知財を参入障壁とする対策は容易ではありません。
しかも、コア技術の特許を取得していても、それをよけて技術開発をして参入しようという後発企業は必ず現れます。
ヒットドラマ「下町ロケット」でも描かれたように、その技術分野が得意ではない弁理士の作成した特許文書は、ズレたり、甘かったりして、カンタンにすり抜けられるものであることが普通です。
そのようなとき、後発企業の技術者に「この分野はやめておこう」と諦めさせるものはなにか?
それは、実際には活用しない周辺特許を丹念に押さえていくという戦術です。
年数をかけて周辺特許の申請や修正を重ね、ムダを承知で膨大に押さえていくのです。
すると、その文書群を見た敵は「参入しよう」「特許をよける技術開発をしよう」「クロスライセンスで参入のスキを狙おう」という気が失せるのです。
もちろん、中核となる最初の特許文書がスキのないものであることは大前提です。
その上で、絶対に奪われたくない市場は、参入障壁となりうる十重二十重の守りを固めておくべきなのです。
製造業のマーケティングコンサルタント、弓削 徹(ゆげ とおる)でした。
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