マーケットインとプロダクトアウトのどちらが正解?
商品開発のテーマを考えるとき、マーケットインであるべきなのか、プロダクトアウトでいいのか、は悩みどころです。
用語説明しておきます
マーケットイン=市場のニーズを調査したり、顧客の意見を汲み取るなどして商品開発をおこなう手法。
プロダクトアウト=企業のつくりたいもの、既存技術を生かして商品開発をおこなう手法。
あなたの会社の存在意義はどこにある?
さて、ある惣菜メーカーの商品開発の指導をしたとのことです。
支援を依頼してくれた社長は「ウチの開発担当者は自分の欲しいものをつくろうとする、商品開発とはそんなものではない、そこを指導してほしい」と言います。
しかし私は、(担当者が食べたいものをつくるのもいいではないか)と考えていました。
担当者が失敗を恐れず開発するのなら、自信はあるのだろう。強いニーズを持つ顧客候補が、少なくとも一人はいるわけです。それなら、その一人のうしろには、ある程度のターゲットボリュームが存在することも期待できます。
そして、何よりその開発工程で担当者は高いモチベーションで開発してくれるでしょう。
マーケットインとプロダクトアウトについて私が講義やセミナーで語るとき、例示として出しているのがマンガ「バクマン」です。
ここに出てくる出版社の編集者が、次のようなセリフを話します。
「ヒットする漫画家には2種類ある。ひとつは、自分の描きたい世界を追求して成功するタイプ。天才というか天然だね。
もうひとつは、売れる漫画とは何かを研究してヒットを飛ばすタイプ。一発屋では終わらないし、編集者としては楽だ。でもね、ほとんどの人気漫画家が、前者のタイプなんだよね…」
つまり、現実的に売れるマンガは「プロダクトアウト」から生まれているというわけです。
どうやってユーザーの声を聞きとる?
世の中を見渡しても、社会を変革するような商品はプロダクトアウトで出現します。
iPhoneをつくったスティーブ・ジョブズはマーケティング調査が嫌いなことで知られ、自分の理想のみを追い求めて商品開発をする人でした。
日本のエレクトロニクス・メーカーが好調であったときでも、ウォークマンは盛田会長が自分のためにつくらせたのがはじまりでした。
市場の声に耳を傾けたところで、「何が欲しいかと聞かれたユーザーは、『もっと早く走れる馬が欲しい』と答えただろう」(クルマの量産に成功したフォード)という結果になることも多いのです。
しかし、以上は幸福な偶然の結果であり、すべての会社がユーザーを無視して商品開発をしたところで成功の確率は低くなるだけでしょう。
反対に、マーケティング調査をおこない、ユーザーの意見を聞いて商品開発をすればいいのか。
仮に、競合企業が同じようなマーケティング調査をおこない、同じような分析をすれば、開発される商品はみな同じ仕様になり、発売時期もデザインも似通った、差別性の薄い商品がローンチされることでしょう。
大手企業はそれでいいかもしれません。ブランド力があり、営業・販売組織も強く、売場も押さえているのですから、差別化点がなくてもシェアを獲得することができます。
他社とは異なる商品で、ときにはニッチな商品で目立ち、検索してもらって、価格が少々高くても締め以外をしてもらうことで営業コストを下げたい中小企業にとっては、少なくともとるべき戦略ではないでしょうね。
そもそも、ウチの得意技術やできてしまった素材をもとに発想して商品開発をおこなうからこそオンリーワンになるのです。
結局、「イン」か「アウト」か?
結論として、弓削はプロダクトアウトをおすすめするのかというと、話はそう単純ではありません。
起点はプロダクトアウトであるべきです。ただ、そのまま突っ走っていいわけではなくて、その先にお客様はいるのか? を問うべきだと思うのです。
例えば、やはり私が提唱しているストレッチ法で自社の得意技術を生かして商品開発をしようとする、そのときにユーザーのニーズに照らして発想する、あるいは発想した商品に対するニーズはあるのかを検討してほしいのです。
だから、どちらか一方に偏っていいという話ではないのです。
「イン」か「アウト」のどちらなのか? というのはもう古い議論かもしれません。
自社のプロダクトアウトな技術とは、商品開発テーマを発想するうえでの偉大なヒントです。
そのヒントを大切にしながら、顧客のニーズに当てはめて製品に加工していく、商品に仕立てていくという姿勢があるべきだと思うのです。
このニーズは顕在化していればわかりやすいですし、潜在的なニーズであれば気づくのはむずかしいけれど鉱脈は大きいという報酬がある。
いわば両利きの考え方と言えるかもしれませんが、ぜひこの観点からのアプローチを心がけていただければと思うのです。
製造業マーケティングコンサルタント、弓削 徹(ゆげ とおる)でした。
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